金曜日の彼女【完】
「私ったら…左右も見ないで飛び出してた」

はやる気持ち。

もしかしたら、もしかしたらって…。

「まさか…事故って…ここへ来る途中?」

目を見開いて私を見ている。


「……うん」


怪我はたいしたことなかった。

だけど、そのショックでしばらく家から出ることができなかった。


「…寒いね」

気づけば空から雪がチラホラ舞いはじめている。

「あ、ああ…悪ぃ。中に入ろう」

「入れるの?」

「まあな。近いうちに来るつもりだったから使えるようにしてもらったんだ」

「へー…」

龍太がポケットを探って鍵を取り出し、玄関を開けた。


ガラガラと少し重たそうな音を響かせながら開けたその向こうは

もっと埃っぽいと思っていたのに

誰かが掃除をしたのだろう。

きれいに片づけられて、しばらく暮らしていなかったとは思えない。

どうやら電気もつくし、暖房器具もちゃんとセットされていた。


「誰が掃除してくれたの?」

「…母さんと―――ババア」

最後の言葉はほとんど聞こえないくらいだけど。

「仲良くなったんだ」

フフと笑みを溢す。

「―――…さあな」

照れているのか、私の顔も見ずにスタスタと奥の部屋へと進んでいく。

「素直じゃないんだから」

ボソッと呟いて、私もその後ろ姿を追った。


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