金曜日の彼女【完】
一番奥の部屋に入った龍太。

私はドアの前に立ち

「…ここは?」

龍太は柱を愛しそうに撫でながら

「俺の部屋…だったところ」

「龍太の…」

部屋を見渡してみる。

なにも置かれていない机。

布団も掛けられていない小さなベッド。

数冊の百科事典が置かれたままの本棚。



窓枠にある小さな傷。



「最後に会った日、一度だけ、ここに琴葉を入れた」

遊ぶのはいつも外ばかりだった。

確かに部屋で遊んだ記憶はない。


「…――約束」

「ああ」

「ここで…」

窓枠のその小さな傷にそっと指を這わす。


「そう――…ここであの約束を交わした」


あの幼い日の約束を


“さがして”“見つけて”

“指切り”“―――…えいえん”


「龍太…」

「ん…」


「ごめんね、忘れてて…」

その約束


守れてないよ―――。


ごめん…。

< 283 / 359 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop