金曜日の彼女【完】
――…思わず目を固く瞑り、耳を塞ごうとするけれど、腕を掴まれているからそれはかなわない。

残酷なまでに、聞こえてきた龍太の言葉――…

「――…別れよう」




―――――――――


―――――…



気がついたらいつの間にか、駅のホームに立っていた。

突然告げられた龍太からのさよなら。

それなのに――…涙が出ない。

なにが現実で、なにが夢なのか、自分でもよくわからなくなっていた。

隣に立つのは沖本君。

けれど、彼もさっきからずっと無言のまま。

私達が乗る予定の電車が入ってきた。

だけど、それをもう何本やりすごしただろう…。

「…琴葉ちゃん、そろそろ帰らないと…」

促され、ようやくふらつく足を動かして電車に乗った。

窓際に立ち、流れる景色を見つめる。

もう暗くなり始めていて、所々に街の灯りが見え始めていた。

龍太のいる街からゆっくりと、けれど確実に離れていく。

私から――…龍太が離れていってしまったように…。


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