初恋
絞ったばかりの雑巾で顔を隠す。
すると、クスクスと笑い声が聞こえた。
へ・・・??
「俺だよ、俺。」
ゆっくり雑巾を下ろすとそこには、
悼矢さんがいた。
「と、悼矢さん!?」
「命だけはって・・・話しかけた瞬間、謝ってくるから何だと思っちゃったよ」
「何で、こんな所に・・・?」
半ベソをかきながら、悼矢さんに言う。
普通に考えてもここに来るはずもないと思われる人がいる。
「手伝いに来たんだけど・・・なんか終わってるみたいだね」
「手伝い・・・あたし、渡邊先輩には・・・」
「知ってる。けど1人じゃ大変だと思ったからさ。しかもこんな広い部屋。」
あたしがさっきまで掃除していた部屋を見回す。
確かに大変だったけど・・・
でも、これはマネージャーの仕事だし。
そんなに気を遣わなくていいのに。
良い人すぎるな、悼矢さんって・・・
「あ、の!もう、バケツの水を捨てるだけなので!!
心配してくださってありがとうございました!!
気持ちだけで、十分なのでっ」
あたしはバケツを持って水道場に行く。
その時、悼矢さんはあたしが持っているバケツをヒョイっと持ち上げる。
「重いだろ?俺が持つ。このくらいさせて?」
悼矢さんは、優しい人だから、
あたしの場所が他の人でも絶対同じ事をするだろう。
悼矢さんにとってこれは1つの当たり前の行動で。
だからあたしにも同じ扱いをしてくれる。
そう分かっているのに・・・