初恋
***
夕方。
あたしは昨日と同じく、
渡邊先輩と一緒に夕飯の支度をしていた。
あれから・・・
悼矢さんとは話す機会がなかったけど・・・
お兄ちゃんとも、
准くんとも普通に話していたから心配ないよね?
「・・・ちゃん、沙奈ちゃん!」
「うえあ!?」
「危ないよ!指まで切っちゃう気!?」
「指・・・?」
下を向くとすでに野菜は切り終わっていて
そのまま自分の指まで切るところだった。
あ、危な!!
あたしは渡邊先輩にお礼を言って作業を始める。
いけない、いけない・・・
ご飯の支度中に考え事は控えよう・・・
「悼矢、さ」
「え・・・」
悼矢、さん??
「どうしたんだろうね・・・今日はいつもと違うから・・・」
「あ・・・そうですね・・・」
「やっぱ悩み事とかあると思う!?
今、合宿中で嫌な事があったとか!」
渡邊先輩は、今にも泣きそうな感じであたしに言う。
何で、そんなに真剣に先輩が悩むの?気にするの・・・?
「・・・本人に、聞いてみた方が・・・」
「そ、そうだよね・・・
沙奈ちゃんに聞いてもどうしようもないよね・・・
ごめん・・・」
確かに、あたしだって悼矢さんの事が心配だけど・・・
何か渡邊先輩は、あたしとは違かった。
普通に心配しているんじゃないような、
もっと他の感情があるような・・・
「・・・」
それは一体どんな感情なのか気になったけど、
聞くのは止めた。
何故か、その事を聞いたら自分が傷つきそうな気がして。
自分の心が苦しくなりそうな気がして・・・
あたしは下唇を噛んで、
自分の思っている事を必死に止めていた。