Any time Any place

そして、祖父、祖母と亡くなってからが、ヤツの自由人生の始まりでした。

あの花子の娘ですからね、大人しく良き母でいるはずがない。

趣味は?と聞かれたら、私が代りに答えてやろう。

「パスポートに色々な国のスタンプを増やして自慢することです」と。

昔、祖父母の世話で我慢していたようですが、私たちが海外に留学し、就職、結婚と、独立すると同時に彼女の「人生を楽しんでやろう」計画がスタートしたのです。

まぁ、おじいちゃんの借金の次は、親父のフィリピンホステスに入れあげたアホな借金と、彼女の人生、借金の為に働いていたようなもんでしたから、それでもめげずに、海外旅行に行こうというポジティブさはあっぱれだと感心します。

最初は、フランスにいる姉を訪ねることだけで満足していたはずが、姉が夏の間はニューヨークにいると分かると、ニューヨークに。

パリとパリ近郊で満足していたはずが、「イタリア行きたいなー」「アイルランド行きたいなー」と要求が高まり、姉が仕事で忙しいとなると、自分でパック旅行を申し込んで、飛び出すようになりました。

自分が仕事で長期休暇が取れないときは、国内旅行に焦点を絞り、「どこに行ってないかなー」と生協のチラシをチェックするように旅行会社のチラシをチェックする。

まぁ、旅行好きのおばちゃんってよくいますよ。

でもね、ヤツのすごいところは、全国各地、世界各地で知り合いを作ってくる。

英語も単語の羅列、フランス語なんてちんぷんかんぷん。でも、家には、見知らぬアドレスが書かれたエアメールやポストカードがよく届く。

知り合った方から写真やプレゼントが届き、ああ、やっぱり花子の娘だ、と思いました。

困っている人がいたらおせっかいな程に手を差し延ばす。

みのさんから得た健康知識をひけらかし、体調の悪くなった人を介護する。

面白そうな人がいたら、躊躇うことなく話しかける。

「世の中、片言の単語とジェスチャーで何とかなるのよねー」と笑う母摩理子。

今では、パリの地下鉄を網羅し、フランス人のおのぼりさんに教えてあげるくらい。勿論、そのフランス人には、摩理子から話かけます。

無料の公衆トイレ設置場所(パリではトイレは有料です)、安いコーヒーショップ(コーヒー一杯が高い!)、フランスパンの上手い店に、安いお土産屋さんも全て把握している彼女は、中高年向けのフランス旅行ガイドを出せるだろう。



< 22 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop