ぼくときみの幸福論
ゆっくりとした動作で起き上がると、先ほど強烈なキックを喰らった左頬をさする。
まだジーンと地味に痛むそこは、当分痛いままだろう。いつものことだ。
俺はまたあくびをする。そして隣で未だに夢を見ている彼女をぼーっと眺め、赤ん坊のように柔らかく弾力のある頬に手を伸ばした。
触れると、指先からじんわりと彼女の体温が伝わってきてそれは少し熱すぎるくらいだった。
相変わらずの高い体温になんだか子供っぽさを感じる。
さらさらとした感触がとても心地よい肌を、ゆっくりと撫でた。
何事もなかったかのような表情で眠る芽衣を見ていると、心の中の重いものがスーッと流れ出ていった気がした。
もうあんなことあるわけないのに、と分かっていながらもどこか警戒を解けない自分がいる。
だから彼女のただの寝顔でこんなにも安心してしまう。