愛よりも深すぎて
『…いいんじゃないのか?』
俺は言った。

『そうは思うんだけどさ。
真実を話したくない気持ちもあるし。
ほんとにごく近い人しか知らせてないから…
でもね…』
うつむきがちに木崎は言う。

『なんかね、ふっと私もさ。
お袋みたいに思い立ったように自殺しちゃうんじゃないかと思うときがあって…』
その言葉を聞くと俺は木崎を見つめた。

『いや、残された人の気持ちは嫌というほど味わったから
そうしたくない、しちゃいけない、とは思ってるけど…そうしちゃうんじゃないかって不安になるときがあって…』

そういうと、木崎は俺をまっすぐ見た。
『先生、もし私も同じように逝ったらごめんね。』

俺と木崎の間に無言の時間が流れた。

『ちゃんと生きろよ…
心配になってきた…』
思わずそういった。

木崎は心配されるのを嫌う。
でもその俺の不安を伝えずにいられなかった。

『大丈夫。私強いから。』

この歳になってもまだこの台詞をいうのか。
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