とっておきの恋
「別に隠してたわけじゃないよ」

安部くんはそう言い訳した。

「でも…!」

あたしは食い下がろうとした。

でも、できなかった。


安部くんは目を伏せていた。

長いまつげが時折小刻みに揺れて物憂げな表情を浮かべた。


「ただ、思い出したくないってこともあるんだ…」

それはすべてを寄せ付けない、高い壁で、あたしはその壁に触れることすらできなかった。


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