とっておきの恋
「安部っちと松原さんのこと」

「あ…」

「最近元気ないなと思って」

「河辺くん、嘘ついたでしょ。カオリンがレズだなんて」

「嘘ついたわけじゃないよ。確かにそういう噂はあったから」

「あたし、この前聞いたの。安部くんとカオリンが中学の頃付き合っていたって…」

右肩が…。

あたしの右肩に乗る河辺くんの手に力が入った。

「ふうん、そうなんだ。でもなんで別れたんだろうね。案外あの噂は本当でさ、自分の気持ちに嘘をつけなかったんじゃない、松原さんが」

「まさか、そんなこと」

「だってさ、俺ずっと気になってるんだ。持田さんを見つめる松原さんの視線、あれって単なる友達に向けるものとは違うよ。もっと深くて、濃くて…」

そのまま、河辺くんはあたしの肩を強引に引き寄せ、抱きしめた。

「か、河辺くん…」

その力は思っていた以上に強くて、あたしは逃げ出せない。

「ねえ、知ってた? なんで松原さんの視線に俺が気づいたか。だって俺も君のことずっと見てたんだよ。安部っちよりもずっと前から」

河辺くんは、左手であたしの顔を押さえ、いきなりキスをした。
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