とっておきの恋
「俺たちは映画を見て、ごはんを食べてすごく楽しくて。そしたら携帯が鳴ったんだ。松原の。松原の妹がいなくなったって。松原の親からの電話だったんだけど、俺たちはすぐに帰った。で、手分けしてその子を探したんだけど、見つからなくて…」

「まさかその妹さん、カオリンのこと探しに出かけたの?」

カオリンを探す小さな女の子の姿が頭に浮かんだ。

不安な顔をして、姉を探す姿。

胸が痛んだ。

「ああ。すぐに帰ってくるって行ったのに、帰ってこなかったからな。商店街の方に一人で出かけたらしい。でも松原に会えるわけなくて」

安部くんは目を閉じていた。

ぎゅっと力をこめて、強く何かを思っていた。

「そしたら、白い車に乗った男が『お嬢ちゃんどうしたの』って。『お姉ちゃん、探してるの』って答えたら、『この車に乗って一緒に探しに行こう』って」

「それって、まさか…」

動悸が激しくなった。

いやな映像が頭に浮かび、あたしは震えが止まらない。

「そう。白い車の男は小さい子をさらっては乱暴を繰り返していたんだ。変質者だよ。それから一週間後、山林の中で遺体が発見された…」

「そんな、そんなことって…」

あたしは体を起こしていた。

熱にうなされているのか、カオリンの妹のことにショックを受けたのか、よくわからなかったが、とにかく胸が苦しくてたまらなくて、呼吸が荒くなっていた。

「大丈夫?」

「うん、あたしは大丈夫。それより、カオリンが…」

そんなふうに妹を亡くして、カオリンはどうしたんだろう。

きっと辛くて辛くて、身が引き裂かれる思いだったのだろう。

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