とっておきの恋
「あたし、カオリンのことレズだなんて言って…」

涙が止まらなかった。

なんてひどいことを考えていたんだろう。

それに、そんな辛い思いをしていたカオリンのこと、あたしちっとも知ろうとしなかった。

いつも醜い嫉妬心ばかり抱いて、親友だなんて口先だけで調子いいことばかり言って…。

あたしったら、あたしったら…。

なんて馬鹿なんだろう。

「松原はエリちゃんに妹を重ねて見てたんだよ。だからあんなに心配して、あんなふうに大事にして」

安部くんの言葉が心にしみた。

あたしを見つめるカオリンの優しい顔が、いくつも頭に浮かんで、あたしの目はなんだかよく見えなくなっていた。

ぽたっ、ぽたっと握り締めていた手の甲にいくつものしずくが零れ落ちていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい、カオリン」

「俺はさ、松原をなんとか立ち直らせたくて、エリちゃんのこと無理やり松原から奪ったりしたけど、これがいいのかどうかなんかわからない。それに、松原に妹のことから少し離れてほしかったんだ。君に対する思いが強すぎることを知って、なんだかまた3年前に戻って行くような気がして心配だったんだ」

安部くんは唇をかみ締めていた。

こみ上げてくる思いをこらえているかのようで、痛々しい。

「安部くん、今もカオリンのこと…」

「でも、あいつは絶対に俺のことは見ないよ。俺を見るたびにあの日のことを思い出す。だから日本を離れるつもりになったんだって思う」

だからなんだ。

カオリンはセラピストになろうって思ったんだ。

日本を離れようって思ったんだ。
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