とっておきの恋
安部くんはときどき振り返って、あたしににこっと笑いかける。

「エリちゃん、大丈夫?」って聞くみたいにさ。

そのたびに、あたしは恥ずかしくて、上目遣いに安部くんの顔を見つめるの。

あたしの心臓の音、届いてるのかな?



安部くんの背中は意外に広かった。

紺色のブレザーがまぶしい。

そしてその背中に守られてるって思ったら、なんだか安心できた。

いつの間にかあたしの心は、手をつなぐどきどきより、幸せな気持ちで満たされていた。




ずっとずっとこのままでいたい…。



あたしの体は宙を浮いているみたい。


こんな感覚、生まれて初めてだよ。






いつの間にか人ごみを抜け、遠藤くんの赤いキャップが見えてきた。




「おー、安部っち大丈夫か?」

心配そうにこっちを見ていた河辺くんだけど、一瞬驚いたような顔になった。

安部くんがあたしの手を握っているのがわかったんだ。



「安部っち、もうはぐれないと思うけど」


河辺くん、嬉しそうにあたしの顔を見つめる。


「ほら、持田さん顔真っ赤になってるし」



あたしは慌てて、安部くんの手をふりほどいた。

そして、なんとか声を振り絞る。


「あ、安部くん、ありがと…」



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