とっておきの恋
「あ…」

あたしはなんて声をかけたらいいかわからなくて…。

開いた口からそのあと何も発することができないまま、その場に立ち尽くしていた。


カオリンは、顔をこわばらせていた。

きれいな顔がまるで人形のようで怖いくらいに。

それでも目をそらすことはせず、あたしと安部くんを交互に見比べる。


「松原、俺エリちゃんと付き合ってもいい?」

安部くんはあたしの肩に手をまわして、挑発的な視線をカオリンに向けた。

カオリンの瞳には失望の色が浮かぶ。

でも、あらためてあたしを見つめやさしく微笑んだ。

「エリ、ごめんね。私、余計なこと言ったね」

そう言って、凛と背筋を伸ばしたまま、あたしたちの横を通り過ぎた。



安部くんがカオリンの後姿を見送っている。

どんな顔してるのか、あたしには見えなかった。

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