とっておきの恋
そのあと運ばれてきたチキンドリアの味はなんにも感じられなかった。

あたしは自分の意地悪心が招いた結果に後悔と自己嫌悪。

そして嫌な想像だけが膨らむ。



もしかして、安部くんはカオリンの気を引きたくてあたしと付き合うことにしたのかも。

あたしのことなんか好きじゃないのかもしれない。



そう思ったら、どうしようもなくて、

ただただ気持ちがこみ上げてきて、

テーブルにいくつものしずくが零れ落ちた。



「エリちゃん…」

あたしの異変に気づいた安部くんはすっかり困ってしまったようで、ポケットからハンカチを取り出し、涙を拭いてくれた。

「ごめんね、安部くん。あたし、あたし…」

とまらなかった。

こんな気持ち初めて。

こんなふうに感じる自分がいやだよ。

「あたしね、安部くんがあたしのこと好きじゃないんじゃないかって思って…。すごく不安で。だってあたし、安部くんのことこんなに好きなのに、気持ちがつりあわないっていうか、なんだか悲しくて、悲しくて…」

あたしはいっぱいいっぱい泣いた。

きっとお店の人がへんに思ったにちがいない。

でもそんなことより、ただ悲しくて、よくわからないけど悔しくて、涙が止まらなかった。
< 89 / 203 >

この作品をシェア

pagetop