流れる星を見つけたら
「詐欺師ではありませんよ。そこそこ当たると思います。お客さんのクレームもないんでしょう」

クレームは
そうだね無い。
赤い苺が甘酸っぱくて美味しい。

「才能はあります。僕が言うのだから間違いない」

優しさが嬉しかった。

「ありがとう」

「いいえ」

シェフは手を伸ばし、私のカップを持ってエスプレッソのおかわりを入れようとする。

その時
彼の左の薬指に
シルバーの細い指輪が見えた。

結婚してるんだ。

納得できるような
ちょっと残念のような

ジッと見ているとシェフはおかわりのカップを渡し、自分の薬指に輝く指輪を触ってまた目の前に座る。

魅力的な人だな。
人間離れしてるけど。

「ご結婚されてるんですね」指輪を見て聞くと「いいえ。まだです」すんなり返事。

してないの?

「誘われた時、これを見せると『そうなんだー』で話が終わるから」

女性にまとわりつかれないように?

「彼女も着けてますよ。いや、僕はどうでもいいのですが、彼女が他の男に誘われないように互いにはめてます」

結局いるんだ。

「彼女ってどんな人ですか?」
興味本位で聞くと
シェフは遠くを見て

「大ざっぱで突っ走る危なっかしい人です」

そうなの?

「僕が油断するとゴミを出すのを忘れるし、インスタント食品を食べる人なので危険です」

そこまで言うか。

「でも、優しくて思いやりがあって大切な人です」

このシェフに
ここまで言わせる彼女がうらやましい。
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