モノクロ
*Colors01*
卯の花
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──バンっ!と壁に押し付けられる体。
『きゃっ……、ちょっと、何するのっ!』
目の前の慣れ親しんだ顔を持つ男の突然の行動に、紗菜(さな)は叫んだ。
薄暗い部屋の中、二人の距離は今にも触れそうなほど近く、男の強い視線が紗菜を捕らえる。
『……俺、お前が好きだ』
『……っ!?』
『ずっとずっと……、お前のことが好きだった。たとえ、妹だろうと関係ない』
『な、何を言ってるの……っ? 離して、おにいちゃん……っ、』
紗菜は兄の柾(まさき)から逃れようと身をよじるけど、自分の腕を壁に張り付ける柾の手の力は想像以上に強く、叶わない。
相手は片手だというのに、男と女の力はここまで差があるものか。
『お前も、俺のこと好きでいてくれてるんだよな? なぁ、教えてよ』
『や……っ、そんなわけないじゃない……っ』
『……口では何を言ってても、身体は正直だよな。……俺のことが好き、欲しい、って顔してる。素直になれよ』
『……っ!』
もう片方の柾の手が紗菜の服の中に入り込んできて、紗菜の背中をするりと撫でる。
ぞくりと肌が粟立つのを感じ、紗菜はビクッと体を震わせた。
『やっ、やめて……っ』
『……頼む。紗菜の素直な気持ち教えて。……世間体なんか考えなくていい。何があっても、俺が紗菜を守るから。な?』
『~~っ!』
耳元で甘く囁いてくる兄の声。熱い吐息。そして、自分を掻き抱く兄の手。
兄から伝わってくる熱に、紗菜は自分の体の熱が上がっていくのを感じながら、思う。
……自分だって本当は素直になりたいのだと。
紗菜の心はいつだって兄のことでいっぱいだ。……物心をついた頃から、ずっと、ずっと。
でも、これは許されない想いなのだと、紗菜は必死に自分の気持ちから目を背けてきた。
なのに、背けようとすればするほど兄の存在は紗菜の中で大きくなっていき、こんなことをされてしまったら必死に抑えていた想いが全て溢れ出てしまう……。
……でも、今ならまだ、引き返せる。そう思った時だった。
『愛してるんだ、紗菜』
『っ、んぅ……っ』
まるで獣が噛み付くように柾の唇が紗菜のそれを塞ぎ、そして二人はそのままベッドへ倒れ込んだ。
何年もの間、二人の間にあった隙間を埋めるように、その空間に二人が重なる音が響き続けていた──。
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