モノクロ
「……?」
……あれ、帰らないのかな? こんな時間なのに。それとも、何か用事でもあるのかな?
不思議に思っていると、私の心の中が聞こえてしまったのか、紀村さんが私の顔を下から窺うように覗き込む。
「あれ、もしかしなくても、俺、邪魔?」
「あっ、いや、そんなことはっ」
「そ? じゃあちょっと話し相手になってよ。誰かと話したい気分だったんだ」
「はぁ……」
椅子に座って、くるくると回る紀村さん。
まるで子供みたいだ。何か、かわいい。
私も椅子に座る。
「ん? 何、この人形?」
椅子の背に顎を乗っけた紀村さんの手が私のデスクの上の“クラウス”に伸び、掴み上げる。
マンガの中では魔物をどんどん倒していく勇者様で超カッコいいんだけど、それはデフォルメされたもので、すごくかわいいんだ。
「あ、私マンガ好きで。それ、クラウスって言うんです」
「へぇ~。マンガ好きなんだ?」
「はいっ。紀村さんは読みます?」
「いや。全く。字読むの嫌いでさ。マンガは絵が主体で字が少ないから大丈夫だろとか言われることもあるけど、本はとにかく全般無理。まぁ、仕事は別だけど。本を読む人は尊敬するよ」
「おもしろいですよー、マンガ! いろんな世界に連れていってくれますし! あ、マンガが無理ならアニメはどうです!? 今は映像も綺麗だし、面白いものがたくさんありますよ! ……っと、すみませんっ! ついっ」
出逢ったばかりの人に力説してしまっていることに気付き、慌てて手で口を塞いだ。