モノクロ
 

呆れられたかなと思って紀村さんを見るけど、そんな様子は全然なくて、むしろ笑顔でいてくれている。


「くくっ、本当に好きなんだな? ハマれるものがあるっていいよな」

「あ、はい……」

「今度オススメのアニメでも教えてよ」

「! はいっ、ぜひっ!」


大抵の人は呆れてしまって「あ、そうなんだ(現実見てないよね……)」で終わる会話なのに、紀村さんはちゃんと聞いてくれて認めてくれた。

営業の人だし話を合わせるのなんて普通のことなのかもしれないけど、何か嬉しいと思った。


「──そうだ。佐々木さんって、家はどこ?」

「え?」

「あ、変な意味じゃなくて。こんな時間まで仕事してるし、ちゃんと帰れるのかなと」

「あっ、大丈夫です! 会社から歩いて10分のところに住んでるので」

「へぇ。なら大丈夫か。一人暮らし?」

「そうです。実家は梅津で、入社して半年くらいは必死に通ってたんですけど、朝起きれなくて近くに引っ越してきたんです。こんな風に残業があったりもするので」

「そっか。いい選択だな。一人暮らしか~。いいなー。俺もさっさと家出たいんだよな。いろいろ面倒だし」


「こう、パーっと自由になりたい!」と言いながら、紀村さんは椅子に座ったまま腕を上に大きく広げた。

その動作に私はくすりと笑ってしまう。


「楽しいですよ、一人暮らし。何と言っても楽だし!」

「男も連れ込み放題だし?」

「なっ! そんなことしてません!」

「どうだか?」

「してません! 彼氏なんていませんから!」

「へーそうなんだ?」


くすくすと可笑しそうに紀村さんが笑う。

連れ込んでるのはマンガだけですから!

……ある意味、イケメンの男をたくさん連れ込んでますけども。二次元の。

……と言いかけたけど、引かれるのも嫌だし言うのは我慢しておく。

 
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