モノクロ
「ふ、ほんと、素直だな」
「それ、何度も聞きましたよぉ……。佐山さん以外にもよく言われるし。耳にたこができちゃうくらいに」
そのたびに、“単純な人間”って言われているような気分になってしまうからちょっと複雑なんだけど……。
「くっ、みんな同じ認識なんだな。でもいいことだって。自信持て」
「……はい、そうします」
って、あれれ? 何だか励まされている感じになってる不思議だ。
「よし。じゃあ、気持ちを切り替えて仕事戻るか。今進めてる企画も待ってることだし。いつまでも1つに囚われてるわけにもいかない」
「……あっ、いけない!」
「ん?」
佐山さんのその言葉で、私ははっと思い出す。
こんなにのんびり喋ってる暇ないんだった!
「私、3時までに纏めないといけない資料あるんでした! 戻ります!」
「はいはい。ふ、ほんと、佐々木さんは忙しいな」
「いえ! あ、これっ! もらえるの、楽しみにしてます!」
「はいはい」
「ありがとうございます!」
ペコッと頭を下げてキーホルダーのお礼をしっかりとして、デスクに戻るために佐山さんに背中を向ける。
くすくすと笑う佐山さんの「頑張れ」という声を背中に受け取りながら、私は慌ててデスクに戻った。
残業時間を使って少しずつ進めているブックカバーの企画書は、この前佐山さんに連れられて行った手芸屋さんで得たことを盛り込むことで、よりリアルさや厚みを増した。
そして佐山さんの達成感いっぱいの表情を見たからか、今までになくキーボードを打つスピードが早くて、あと2~3日はかかると思っていた企画書はその日のうちに完成した。
次の日には修正を入れながら内容を見直し、その翌日にはリーダーに企画書を提出できてしまうほど、乗りに乗っていた。
この勢いと三度目の正直で、次こそは企画書が通ればいいな、と思った。