モノクロ
 

「何それ。そんな風に仕事してても、つまんなくない? 与えられたものだけを忠実にこなせばいい、とか思ってんの? そんなの、甘えだろ?」

「!」

「何かあるなら言ってみればいいのに。明らかにおかしい意見じゃなければ、怒られたりもしないだろうし。企画の仕事って自分の理想を少しずつでも形にしていくのが醍醐味じゃないの? せっかく企画にいるんだしさ、たくさん意見出していいもの作ろうぜ」

「……」


初めて言われた言葉だった。

……いや、紀村さんが言うように、上司に何も指摘されないことに甘えていたのかもしれない。

入社して3年が経った頃、仕事を辞めようかな、とふと思ったことがあった。

いつまで経っても下作業に追われてばかりで意見も出せず、企画のど真ん中の作業なんて手の届かないところにあって、やりがいを見失ってしまったから。

でも、他にやりたいこともなかったし、むしろ大好きな文具や雑貨に関係する仕事ができるのは幸せなことで、たとえ具体的な企画の仕事ができなくても、私がやってるような仕事も企画の仕事の土台となる大切なところだからと言い聞かせてきた。

残業をするのも要領が悪いだけ、意見を言わないのはただの甘え、ということも本当は気付きながらも、自分は頑張っているんだと正当化させて、今までやってきたんだ。

……それをこの人は簡単に見破った。

 
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