モノクロ
「っ、いたたたたっ!! ちょっと先輩! それ、痛いですってば!」
「ここは~……頭のツボ、だったかなー」
「はいっ!?」
私の手をまじまじと見る先輩は、真剣な表情だ。
「ここが痛いってことは……うん、そうか。気を落とすなよ。頭が悪くたって、さきこにだっていいところはあるから!」
「何ですかっ、それ! バカにしてるでしょ!? そんな憐れむような目、しないでください!」
「あぁ、かわいそうに……っ」
よよよ、と先輩は泣くふりをする。
私はその隙に先輩の手から逃れ、じんじんと痛む右手を左手で労るように揉み、さする。
「もうっ。来て早々右手を出せなんて言うから何事かと思ったら、ツボ押しを試したい、だなんて」
「今日、営業先のじいさん社長に教えてもらったんだって。身体が軽くなるし手軽にできるからって。でもなー、俺、全然痛くなかったし気持ち良かったから、さきこにもしてやろうと思ったんだけど」
「おかしいなー」と先輩は椅子を左右に揺らして自分の手をマジマジと見つめながらツボを押している。
本当に痛かったんだから! 先輩のバカ!
……と思う反面、先輩に手を触れられたことで心臓がバクバクしていたのが事実。
こんなに顔が熱くなっているのも先輩のせいだということは明らかだった。
残業をしているとたまに先輩がオフィスに顔を出す。
今日もひょっこりと顔を出したかと思えば、突然のツボ押し講座が始まった。
……触れることができたと言っても、痛いだけで全然嬉しくなかったけど。
オフィスには私と先輩の二人しかいないというのに先輩と私との間に何かがあるわけもなく、1年前と何も変わらず先輩と後輩の関係のままだった。
……でも、私の先輩への想いは1年前と何も変わらない。
ううん。むしろ、大きく大きく膨らむ一方だ。
先輩に無意識に線引きされるたびにへこんでは、優しくされるたびに嬉しい気持ちに襲われる。
完全に先輩に相手にされていないことはわかっているけど、それでもやっぱり先輩が好きなんだ。
何も進展はないけど、少しは先輩の生活の一部になれていたらいいなと思う。