モノクロ
瑠璃
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……美里(みさと)が雅樹(まさき)の身体をドンッと押した時だった。
数メートル先に美里の彼氏の和哉(かずや)がいることに気付いたのは。
『っ! 和……っ!? 何でここに……っ』
『……おい、どういうことだよ?』
『! や、これは……っ』
『どういうも何も、こういうことだけど? なぁ、美里』
『ちょ、雅樹変なこと言わないでよ!』
美里は雅樹の言葉と、今起こったこと……雅樹に無理矢理キスされたことを打ち消すように叫ぶ。
『……ふぅん。そんな風に名前で呼び合って……キスするような仲ってことね』
『違うのっ、話を聞いて……っ』
美里は慌てて和哉のそばに行くけど、上から降ってきたのは和哉の冷たい目線だった。
そのあまりにも冷酷な瞳にびくりと身体を強張らせる。
『和』
『いいよ。別れよ』
『!? 嫌……っ、私が好きなのは和だよ!? 別れたくなんかない!』
すがるようにして美里が和哉のシャツを掴んだ時、後ろから雅樹に身体をぐいっと引き寄せられた。
『へー何だ。話早いじゃん。もしかして、あんた、美里と別れたいと思ってたとか?』
『……別に何も』
『……!』
「そんなことはない」という和哉の言葉を期待していた美里は言葉を失う。
可笑しそうに雅樹がくくくと笑い出した。
『くっくっ。美里、お前にはもう興味ないんだってよ。俺のところに来いよ。たっぷり可愛がってやるからさ』
『……っ、や……っ』
『……はぁ。ご自由にどうぞ。』
和哉は無表情のまま、くるりと美里と雅樹に背を向け歩き出す。
美里は和哉を追いかけようとするけど、その身体は雅樹にしっかりと捕らえられていて動くことができない。
手を必死に伸ばして和哉の名前を呼ぶ。
『! やだっ! 待って、和っ! いやっ!』
『……くくっ、二人で楽しもうぜ』
『! やっ、離してよ!』
『……離すかよ。俺がどれだけ我慢してたと思ってるんだよ? 15年だぜ? その分、たっぷり美里のこと楽しませてもらうから』
『なっ……、んむ……っ!』
背後にいる雅樹に向かって振り向いた瞬間、顎を捕らえられて唇を塞がれた。
……そこにひらりと降ってきたのは、一枚の桜の花びらだった。
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