モノクロ
「……本日はご足労いただきありがとうございます。ブックカバー企画のデザイン部門を担当させていただく佐々木です。よろしくお願いします」
いつものショウだったら笑い飛ばしそうだな、と思いながらも、丁寧に挨拶をする。
……でも、返ってきた反応は。
「aKiRaです。とても素敵な企画に声を掛けていただけたこと、とても光栄です。少しでも貢献できるように頑張りますので、よろしくお願いします」
笑顔は浮かんでいるものの、いつもとは違う“デザイナーとしての顔”だと感じた。
初めて見るショウの“プロ”の表情に最初は何だか落ち着かなかったけど、打ち合わせをスタートさせると、そんな気持ちは次第になくなっていって、打ち合わせに夢中になっていた。
プリントするものは布だから紙とは違って印刷した時の雰囲気が変化すること、細かすぎる模様は出にくいこと、他にもたくさんの注意点などを伝えていくと、ショウも細かく質問をしてきてくれた。
ブックカバーを製作してもらう予定の業者から受け取っている布やプリントのサンプルも見てもらったりもしながら、打ち合わせは進んでいく。
デザインなんてしたことのない私が持っている知識量と、佐山さんやショウの持っている知識量との差が大きいことを思い知りながら、打ち合わせは2時間ほどかけて行われた。
自分が主体で動かないといけないはずなのに、すごく勉強になった時間だった。
「以上になりますが、何かご質問はありますか?」
「いえ。大丈夫です」
「では、今日はありがとうございました。これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
お互いに挨拶を交わした後、ぱたりと資料を閉じてふぅと息をつくと、佐山さんが「お疲れ様。先に戻ってるから」と笑顔を向けてくれて、ショウにもしっかり挨拶をした後、会議室から出て行った。
「……くぅ~! 肩凝った!」
「! ……お疲れ様です」
佐山さんがいなくなった途端、ショウがぐーっと身体を伸ばしてそんなことを口に出した。
その様子が何だかおかしくて、私はくすりと笑ってしまった。
打合せしながら感じていたけど、ショウは飄々として何でも物事をさらっとこなすタイプに見えて、実はすごく真面目で真剣に挑んでいる人なのかもしれない。
「敬語はもうやめようぜ~。仕事は終わったんだし、敬語で話すのも話し掛けられるのも慣れてなくて肩凝るんだよー」
「……そう? じゃあ、うん」
確かに普段のショウも初めて会った人に対しても「タメ口で!」と口癖のように言ってるっけ。
そういう理由があったのか、と私は納得する。