モノクロ
「後輩にお金出させるなんて、先輩の風上に置けませんって~! 大先輩っていうなら、こう、どどーんと太っ腹におごってくれるものでしょ!?」
「それはただの理想論」
「えっ! 嘘っ! ショック!」
「人生、そんなに甘くない」
「そんなぁ」
ふにゃあ、と眉を下げてしまう。
「……ぷ。くくっ、佐々木さん、おもしれぇな」
「!」
紀村さんの手が不意に私の頭に向かって伸びてきて、ドキン!と大きく心臓が跳ねた。
え、え、これ、撫でられる……?
紀村さんの手が私に触れようとしたその瞬間、チーン!とエレベーターが鳴り、ドアが開いた。
「あっ、エレベーター来ましたね!」
ビクッと身体が跳ねたのを誤魔化すように、私は慌ててエレベーターに乗り込む。
でも、心臓の鼓動は治まる様子はない。
今、すごく惜しかった! 撫でてもらえそうだったのに!
きっと撫でてもらったら気持ちよくて……って、私、何考えてるんだ!
不意に思ってしまったことに顔が熱くなるのを感じながら、ちゃんと後輩らしくエレベーターガールに撤さなきゃ!、と小さく息をついて、操作盤の前に平静を装って立つ。
営業部は4階だから紀村さんも4階でいいはず。だけど、一応確認!
「4階で大丈夫です?」
「うん。ありがと」
「いえ。紀村大先輩のためですからっ」
「ぶっ。ウケる」
紀村さん……もとい、紀村先輩が乗ったのを確認して、エレベーターのドアを閉める。
他には乗る人もいなくて、エレベーターの中には紀村先輩と私のふたりだけだ。