モノクロ
「“ショウ”って言ってたけど、この前さきこに抱きついてた男? いつかもすれ違ったデザイナーと同じ人だよな?」
「へ? あっ、えっと……」
私、無意識にショウの名前言っちゃってた?
先輩といる時にショウに泣きつかれたことも、完全に忘れちゃってた……。
佐山さんにもエンジェルランドのチケットを探しているのがショウだとは話していないから、先輩の質問にすぐに答えられなかった。
『仕事が遅れるからチケットを探している』なんてことを知られたらショウ……いや、“aKiRa”さんのイメージも悪くなってしまうんじゃないかと思っていたから、黙っていたのだ。
「ふぅん。その男のために頑張ってたってわけね」
「う、あの。佐山さんには言わないでもらえますか?」
「……別にいいけど」
「すみませんっ! ありがとうございます」
私はぺこっと先輩に頭を下げる。
とりあえず、これで安心だ。先輩は「言わないで」とお願いしたことをぺらぺらと他人に話すような人じゃないことはわかっているから。
安堵した私は頬を緩ませ、先輩にお金を入れたポチ袋を差し出す。
「これ、お納めください」
「あぁ。ぶっ。何この袋」
くすくすと笑いながら先輩が見ているのは、“馬券大当たり!”と書かれたポチ袋。
エンジェルランドは馬のキャラクターがいるしと願掛けのつもりでこの袋にお金を入れておいたのだ。
「願掛けしてたんです! ちゃんと叶って良かった~」
「くくっ、さきこらしいな。うん、確かに」
中身を確認した先輩はカバンのポケットにポチ袋を入れ、私に目線を向けながらくすりと笑った。