モノクロ
しっかりと一人でジュースを飲めるようになった梢ちゃんをにまにまとしながら眺めていると、若菜さんが声を掛けてきた。
「で? 隼人はいったい何なの?」
「……えぇっと」
……それは私にもわかりません。
突然の問い掛けに私は口を閉ざしてしまう。
若菜さんには紀村先輩とのことを何だかんだとメールで話していて、若菜さんは私のことをたくさん心配してくれていた。
ついには、メールだともどかしいから直接話を聞かせて欲しい、と今日のランチに誘われたのだ。
梢ちゃんのお世話とか家事とかいろんなことで忙しいはずなのに私のために時間を取ってくれるなんて申し訳ないと思うとともに、すごく嬉しくてありがたかった。
若菜さんがいなければ、私は一人っきりで落ち込むだけだっただろうから。
若菜さんの問い掛けに答えられないでいると、梢ちゃんが若菜さんの言葉を聞き取り、その名前を口に出す。
「はーくん?」
「うん。今日ははーくんは来ないの。寂しいけど、女の子3人で楽しもうね」
「うん!」
私が答えると、梢ちゃんはにこっと満面の笑みを向けてくれて、胸がきゅんとした。
“はーくん”とは先輩のことらしい。
幼稚園でお友だちのことを“○○くん”と呼ぶことを覚えてからこの呼び方になったみたいで、先輩が私に抜け駆けして梢ちゃんと会っていたことを示す。
まぁ、私も先輩に内緒で何度も梢ちゃんと会ってるわけだし、人のことは言えないんだけど。
「ね、梢。これで遊ぶ? 絵本でぺたぺたするの、好きでしょ?」
「うんっ! えほんであそぶ~」
目の前に絵本を出された梢ちゃんはジュースを飲むのをやめ、笑顔で絵本を受け取り、上手にめくり始める。
絵本の中の動物を指差しながら、動物の名前を言っていく。
若菜さんはジュースを倒れない位置まで移動させた。