モノクロ
 

「おぉっ。新兵器ですか! 梢ちゃん、こんなにすらすら動物の名前を言えるようになったんですね!」

「梢、絵本の中の動物さんのお名前は全部言えるようになったんだよね?」

「うん! あーちゃん、これはね~きりんさんなんだよ!」

「そうなんだねぇ~。お名前言えるなんて、梢ちゃんすごいねぇ~」

「うん! きりんさんはおくびがながーいの!」


にっこぉ、と梢ちゃんの得意気な笑顔に、私は悶える。

くーっ、かわいすぎるよー!


「絵本にシールを何度も貼ったりはがしたりできるようになってて、それが楽しいみたいなの。あと、最近はこれもブーム」


若菜さんのバッグの中からするりと出てきたのは、子どもに大人気の“魔法使いプリプルプレキュルン”という、噛みそうになるような名前のアニメの絵が描かれたパズルだ。


「パズルですか?」

「そっ。あっという間にどこに何を置くか覚えちゃうんだけどね~。ピースの数を少しずつ増やしてるけど、子どもの記憶力って本当にすごいの。スポンジが水を吸うみたいにどんどん吸収しちゃうから、私も旦那もついていけないくらいで」

「わ。そうなんですね~」


若菜さんはパズルを梢ちゃんのいる場所とは反対側に置く。

シールを小さな手で器用にぺりっとはがして、新たに貼る場所を見つけながら「ここかなぁー? らいおんさんのおとなり!」と言っている梢ちゃんを見て微笑んだ後、若菜さんは私に目を向けた。


「梢は遊ばせておくから、話聞かせて? 苦しいことがあるなら、全部言っちゃってね」

「……はい」


穏やかな笑みを私に向けてくれた若菜さんに、私はほっとしてしまって、ちょっと泣きそうになってしまった。

……自分で思っている以上に、私はギリギリのラインにいたらしい。

私はぽつりぽつりと最近の出来事を言葉にしていった。

 
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