モノクロ
すると、ようやく泣き止んだ梢ちゃんが私の顔をじっと見てきて、私が何だろう?と首を傾げると、梢ちゃんは若菜さんに笑顔を向けた。
「ねぇ、まま。あーちゃん、にこにこだよっ」
「そうだね。良かったね」
「うん! よかったね!」
「梢も笑顔だね」
「えへへ~」
若菜さんに頭をよしよしと撫でられた梢ちゃんはさらに笑顔になった。
梢ちゃんの笑顔は心をあたたかくする。
……私も先輩にとってそんな存在になれたらいいな。
その時ふと、先輩に言われたことを思い出した。
『さきこの才能だよな。周りを笑顔にさせるのって。さきこはそのままでいてくれたらいい』
ずっと心に残っている言葉。泣きそうなくらい嬉しかった。
小さいことかもしれないけど、私にもできることがあるのかもしれない。
「若菜さん」
「うん、何?」
「図々しくても、やっぱり私、先輩のそばにいたいです」
「うん」
「先輩が心に抱えてるものが少しでも軽くなるように、少しでも笑顔になってもらえるように」
「うん。明希ちゃんにしかできないこと、たくさんあるよ」
「……はい」
私にしかできないこと。
それが何かはわからないけど、私ができることをすればいいんだよね。
私は私のままでいればいい。
先輩からもらった言葉と、若菜さんが掛けてくれた言葉に、改めてそう思う。
何だか視界がクリアになった気がして、よしっ、と私は拳を握って気合いを入れた。
まずはできる限り笑顔でいれるように心掛けよう。
笑っていれば、前向きになれる気がするから。
「あー、ほんと、隼人には明希ちゃんはもったいないなぁ~。渡したくない~」
「え、何ですか、それ」
「ふふっ! 明希ちゃんはいい女だなってこと!」
「ええっ?」
生まれて初めて言われた言葉に私は驚いてしまった。
私がいい女だなんて、そんなわけないのに。
そんな私の心を読んだように、若菜さんが言葉を掛けてくれる。
「明希ちゃん、もっと自信持とう? 自分では見えないことが多いのはわかるけど、明希ちゃんはもっと自分に自信を持って大丈夫だよ」
「……はい。ありがとうございます」
「まま~、こず、おといれぇ」
「あ、はいはい。明希ちゃん、話の途中なのにごめんね。行ってくるね」
「はいっ! ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう」
もう少し我慢してね、という若菜さんの言葉とともに、ふたりが個室から出ていく。
それと同時に私ははぁと息をついた。それは今までのように辛さの含まれたため息ではない。
気合いを入れ直して、前を向くためのものだ。