モノクロ
感動しながらもふと思い付いたことがあった。
「佐山さん」
「ん?」
「これ、メッセージを変えたものを作るのもいいと思いませんか? インターネット販売に対応することになったら、好きなメッセージにできるとか」
「うん。それはいいな」
「あと、栞は毛糸で作るのってどうでしょう? バサバサにならない素材のものを探しだして、先端には邪魔にならない程度の大きさの毛玉をつけるんです! ビジューをつけてもオシャレかも! ゆらゆら揺れたら絶対かわいいです! これなら今からでも可能かもしれませんよね」
「それなら、今後はただのイラストじゃなくて、刺繍みたいにするのもいいかもしれないな。刺繍なら自由もきくし、専門業者もありそうじゃないか?」
「刺繍! 素敵ですね! 後で調べてみます!」
「あぁ」
デザイン画に見とれながら、私は溢れ出すまま気持ちを口に出す。
「すごいですね。デザインが上がってきてからも新たにアイデアが生まれるなんて」
「ものがあった方が浮かぶことが多いかもしれないな。まっさらな状態から生み出すのも、何かものがあって生み出すのも、どっちも楽しい。それは企画という立場にいるからこそできることなんだよな。もちろん、できたものを覆すのは難しいことだけど、そこをどううまくやっていくのかが腕の見せどころだ」
「はい。何よりも、最終的には手に取ってくれるお客さまに喜んでもらえるものを作れたら、最高ですよね」
「だな。俺たちにとってはそれが一番だからな」
佐山さんと頷き合う。
より良い形にしてお客さまに手に取ってもらうために、自分にできることややるべきことをしっかりこなしていこうと改めて心に決める。
「そうだ。佐々木さん、原寸大でプリントアウトはしてみたか? もちろんフルカラーで」
「え? いえ、してませんけど」
「パソコンで見るにしろ、プリントアウトするにしろ、実際の色合いとは変わる。実物とは見た目は違うとしても、実際の感覚に近付けた目線で確認するためにも原寸大でプリントアウトしてみて、本につけて確認してみた方がいい」
「なるほど、確かにそうですね! すぐにプリントアウトしてみます!」
「あぁ」
実物を見ない限り、その良さも悪さも確認できないことは経験上わかっていること。
実物がないのなら、近いもので代用するまでだ。
「あと、候補を選ぶ時は客観的にな。個人的な感情ばかりを押さないように」
「はい!」
私は早速プリントアウトし、あらかじめ製作業者からもらっていた様々な生地サンプルも確認しながら、佐山さんや他の同僚たちも巻き込んで、あーだこーだと議論を始めた。
議論の中、意見がぶつかることもあったし、やっぱりつい出てしまう私の個人的すぎる意見を却下されたり否定されたりすることもあったけど、すごく楽しくて充実した時間だった。