モノクロ
「佐々木さん、前に日程伺い書を総務部長に提出するようにお願いしたことあったよな?」
「あ、はい」
「ちゃんと手渡しした?」
「はい、もちろん。あの日は総務部長もいらっしゃいましたから、伝言ではなく手渡ししましたけど……。それがどうかしたんですか?」
「やっぱりそうだよな……。いや、受け取ってないと言われたんだ」
「えっ!?」
受け取ってない? いや、そんなはずはない。
あの日のことはしっかり覚えているし、確実に手渡しした。
じゃあ、どうしてそんな話になるの?
「総務部長が受け取ってないって言ったんですか?」
「あぁ。少なくとも自分は上には回した覚えはないと。こっちの提出漏れじゃないかと言われた」
「そんなわけありません……っ! でも、じゃあ、すぐに試作に回せないってことですか?」
「そうなるな」
「でも、もう業者の方にも来週の頭に試作に回すって日程を組んでもらってるのに」
「問題はそこだな。部長に報告してくるから、大嶋さんは業者に連絡する準備をして。佐々木さんは一応、もう一度その時のことを思い出しておいて」
「! はい」
私のミスだという可能性も佐山さんは考えているんだ。
総務部長に提出漏れだと言われたからかもしれないし仕方ないことだとは言え、やっぱりちょっと複雑な気持ちになって胸がぎゅっと掴まれたような感じがした。
いや、でも小さな可能性でもすべて考えるべきなんだ。
私もちゃんとあの時のことを思い出そう。
痛む胸に無意識に手を当てた時、大嶋さんに肩をぽんと叩かれた。
「!」
「佐々木さん、心配しなくても大丈夫よ。きっとどこかに紛れ込んでるだけだと思う。どちらにしろ日程は遅れることになるだろうから、私もしっかりフォローする。業者への連絡は任せておいて」
「はい……っ。すみません、ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げると大嶋さんは「大丈夫よ」とやさしく微笑みかけてくれて、自分のデスクに戻って行った。
私はとにかく何かしないといけないと、自分のデスクの上の資料をひっくり返し、探し始めた。