モノクロ
「……やっぱり、ないか」
もしかしたら違う資料を持って行ってしまったのかもしれないと自分のデスクを探していたんだけど、どんなに探しても自分のデスクには伺い書はなくて、がくりとうなだれる。
それにやっぱりどんなにあの時のことを思い出しても、封筒の中のクリアファイルに収まっていたのは日程伺い書でそれを持って行ったはずだし、総務部長にも「確かに」と受け取ってもらったはず。
私からも、総務部長に一度確認に行った方がいいかもしれない。
そう思った時、後ろから声を掛けられた。
「さき、じゃない、佐々木さん」
「っ! 先輩……っ?」
はっと振り向くと先輩がいて。
久しぶりにこうやって真正面で話す先輩はいつもの笑顔を向けてくれていて、何だか安心してしまって涙が出そうになってしまった。
一切安心できる状況ではないというのに、心を緩ませる何かが先輩の笑顔の中にはあるみたいだ。
私の様子に先輩が首を傾げる。
「何、どうしたんだよ。泣きそうな顔して。つーか、デスクの上、散々だな~。こんな時期に大掃除でもやってんの?」
「あの……っ」
「佐々木さん、試作のことは業者の方には連絡してもらってるから。とりあえず、1週間程度遅れることは伝えてもらってる。って、紀村? いたのか。何か用か?」
「あぁ、ちょっと佐山に聞きたいことがあって。遅れるって、何かあったのか?」
「あぁ。後で営業にも連絡するけど、ブックカバーの日程伺いがうまく通ってなくてさ。サンプル品のチェックが1週間くらい遅れることになると思うからよろしく」
「日程伺いが通らないって、いつ出したんだよ。不備があったらすぐに戻ってくるものなんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけど、ちょっとな。でも大丈夫」
「ご、ごめんなさい……! あの、私がちゃんと提出できてなかったかもしれなくて」
「は? どういうこと?」
先輩にかいつまんで話すと、先輩が何かを考えるように口元に手を当てて、口を開いた。