モノクロ
「総務に提出したの、先週の木曜って言ったよな?」
「え? はい……」
「それなら俺見てたよ。佐々木さんが総務部長に封筒渡してるところ。部長は中身を確認してから受け取ってたと思うけど。俺の場所からはさすがにその中身が何かはわからないけど、昼前だったかな」
「……へ?」
ふと先輩が総務部で三神さんと話していた光景を思い出す。
私がいたことに気付いていたんだ。
しかも、伺い書を出しているところを見られていたなんて。
「やっぱりちゃんと提出していた可能性が高いな……」
「あぁ。俺もちょうど総務にいたから何かを提出してたことは間違いないし、絢も見てたから聞いてみたらいい」
「そうか。うん、わかった。助かる」
「っていうか、こんなにブックカバー企画に力を入れてる佐々木さんがミスするとは思えないけどな」
「あぁ、そうだな。俺もそう思ってるよ」
「!」
先輩と佐山さんの言葉に目を丸くしてしまう。
まさかふたりにそんな風に思ってもらえるなんて。
「もう一度、総務部長に記憶違いがないか掛け合ってくるよ。三神さんにも確認してみよう」
「それがいいな。佐山、1週間の遅れくらい取り戻せる算段はついてるんだろ?」
「もちろん。試作伺いは先に通すようにしてもらったし、サンプル完成は遅れるけど必ず取り戻せるよ。佐々木さんも大丈夫だから安心して」
「はい……!」
佐山さんの心強い言葉に私は頷く。
先輩にも「大丈夫だって」と頭を撫でられ、私はホッとして頬を緩めた。
その後、佐山さんが三神さんに頼んで日程伺い書が総務部にないかを確認してもらったところ、次の週の頭、他の資料に紛れ込んでいるのが発見された。
どうやら私が伺い書を提出したその日は決算日で総務部には資料が溢れかえっていたらしく、たくさんの資料の中に紛れ込んでしまったという。
その数日後、無事に決裁され、ブックカバーの試作に出すことになった。