モノクロ
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ようやくブックカバーの作業が落ち着き、数日が経ったある週末の終業後。
「またそのうち忙しくなるから、週末くらいは早く帰りなさい」と部長が言ってくれ、同僚はみんな言葉に甘えて早めに帰ることにした。
そんな中、私は営業部のフロアに足を踏み入れていた。
紀村先輩、戻ってきてるかな……。
忙しさを理由にずっと先伸ばしにしてしまっていたエンジェルランドのお礼、そしてこの前の日程伺い書のお礼をしにきたのだ。
エンジェルランドのお礼を先伸ばしにしてしまっていた理由はたったひとつ。
ショウとのことを誤解するような言葉を掛けられるのが怖かったから。
でもお礼を言いたい気持ちは確かにあるし、ブックカバーを試作に無事に回せたことを伝えたかった。
それに何よりも先輩に会いたくて、先輩に会いに行く勇気を出すことにしたのだ。
先輩に会えるかもしれないという期待からドキドキしながら、営業部の扉をそーっと開こうとした時だった。
「さきこ?」
「ひゃわっ!?」
背後から声を掛けられ、私はびっくぅ!と体を跳ねさせてしまう。
声の方に振り返ると、目を丸くした先輩が私を見ていた。
「先輩!」
「くっ、驚きすぎじゃね? 何してんの? 誰かに用事?」
「あっ、お疲れさまです! あの、先輩に!」
「ん、俺?」
「いろんなことのお礼をと思って。まずエンジェルランドのことなんですけど、あの時は本当にありがとうございました。おかげで無事に期日通りにデザインをあげてもらえて、本当に助かりました。もっと早く改めてお礼をするべきだったんですけど、すごく遅くなっちゃってごめんなさい」
「あー、そんなのいいのに。もう、金も礼もちゃんと受け取ったじゃん。さきこって見かけによらず律儀なんだなー」
「見かけによらずって何ですかっ」
「くくっ」
先輩の屈託のない笑顔が目に映った瞬間、私の心臓がドキッと跳ねる。
……私は律儀なんかじゃない。こうやって改めてお礼をしようと思ったのは、ただ私が先輩に会いたかっただけなんだから。