モノクロ
「あの、ショウ、すごく喜んでました! 先輩にしっかりお礼言っておいてって、念押されました」
「いーえ。どういたしまして」
ショウとのことを誤解するような言葉をまた言われないうちにと、すぐに次の話題を口に出す。
「あと、先輩のおかげで行方不明になってた日程伺い書も見つかったんです。一昨日、無事にブックカバーの試作にも出せたので、そのことも先輩に伝えたくて。先輩のおかげです! 本当にありがとうございます!」
「そんな大したことしてないし。サンプル品できるの楽しみだな! 俺も楽しみにしてるよ。さきこの踏ん張りが形になるんだもんな」
「はい! 私だけじゃなくて、チームみんなもすごく頑張ってたから、みんなで早くサンプル品を見たいねって言ってて」
「うん。そうだよな」
にっと先輩が笑顔を向けてくれた瞬間、先輩の携帯がけたたましく鳴り響いた。
先輩が「悪い」と私に断りを入れ、携帯を手に取った瞬間、一瞬、先輩の動きが止まった気がした。
「?」
どうしたんだろうと首を傾げた時、先輩がふぅと息をついて電話に出た。
「……もしもし? ……どうしたんだよ、圭斗(けいと)。こんな時間に珍しいな」
口調からプライベートの電話だと気付いた私は、先輩に見えるようにぺこっと頭を下げ、自分のオフィスに戻るとジェスチャーだけで伝えて踵を返した。
その時だった。
「は!? どういうことだよ!?」
「っ!!」
突然張り上げられた声に、私はビクッと体を震えさせてしまう。
慌てて振り向くと、そこには今までに見たことのないほど、取り乱した様子の先輩の姿があった。
先輩はぐっと感情を抑えているような苦しそうな表情になる。
「……どうして! お前がついてて、そんなことになるんだよっ!?」
……何? 何かあったの? 先輩がこんな表情するなんて……。