モノクロ
 

人の電話の内容を聞くなんて失礼なことだってことはわかっているけど、どうしても体が動いてくれなかった。

それに……こんなに苦しそうな先輩を放って去ることなんてできない。

相手の人が話しているのに対して、先輩は感情を抑えるような低い声で何度か頷き、少しずつ冷静さを取り戻していっているように見えた。

でも苦しげな表情は変わらない。

むしろ、泣き出してしまうんじゃないかと思うほど、つらそうだった。


「……友美(ともみ)は大丈夫なんだな? 子供も……そう」


……ともみ? って、誰? 子供って……?

先輩の口から出てきた女の人の名前と「子供」という単語に、私の心臓がどくんと嫌な音をたてる。


「……怒鳴って悪かった。あいつのそばにいてやって。……って俺が言わなくても大丈夫か。……あぁ、頼むな」


先輩が電話の向こうの相手と何度か言葉を交わして電話を切るまで、私は呆然とそこにいることしかできなかった。

今の会話は一体何だったんだろう。先輩に彼女がいるとかそんなのを通り越して、まさか結婚してたり……。

携帯をスーツのポケットに仕舞った先輩は私の存在に気付いて一瞬ビクッと体を震わせた後、ぽつりと溢す。


「……あー、さきこ、いたのか……」

「あ、あの、先輩、えっと……」


いつもとは明らかに様子の違う先輩に何と言えばいいのかわからなくて、立ちすくんでしまう。

どうしよう、聞いちゃってたこと、謝った方がいいのかな……いや、でも……。

何も言えないでいると、先輩がふっと小さく嘲笑した後、にっと笑った。

 
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