モノクロ
「さきこ、今日、暇?」
「へっ?」
「行こーぜ」
「行くって、どこに……」
「ぱーっと飲みに! 礼をしに来たっていうなら、今日付き合えよ、さきこ。ブックカバーを試作に回せたお祝いもしよーぜ!」
「……」
前の私だったら、大喜びで「行きます!」って答えてたと思う。
でも今は状況が違う。
先輩には三神さんという彼女がいる。それなのに、私と二人で飲みに行っても大丈夫なの?
それに、今の先輩の誘いは不自然過ぎて。
ついさっきまであんなに取り乱して苦しそうだったし、“ともみ”さんと“子供”さんに何かがあったみたいなのに、そんな状況で飲みに行くって言うの?
「何だよ、行きたくないのかよ? それとも、用事でもある?」
「や、そういうわけじゃないですけど……。でも先輩こそ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だから誘ってんじゃん。じゃあ決まりなっ」
「えっ、先輩っ?」
「7時くらいなら出れるか?」と聞かれたので戸惑いながらも頷くと、先輩はいつものようににかっと笑って「7時に下で」と言い、それ以上何も言う暇も与えてくれないままさっさと営業のオフィスに戻って行ってしまった。
廊下に取り残された私は本当にいいのかなと呆然としていたけど、このフロアに到着したらしいエレベータから営業の人たちの会話が聞こえてきて、はっと我に返った。
とりあえずオフィスに戻ろうとエレベーターから出てきた営業の人たちに挨拶をして、私はエレベーターに乗り込んだのだった。