モノクロ
 



「さきこ、酒足りてなくね?」

「いや、足りてますって! 先輩は飲みすぎです! 先輩にはこっそりノンアルコール挟んでるけど、飲みすぎです! もう飲んじゃダメ!」

「はぁ? んなことしてたの? まだ足りねーし! すみませーん、芋焼酎ロックひとつ!」


近くを通り掛かった店員さんを捕まえ、先輩はお酒を注文する。

私は「あっ、その注文待ってください!」とすぐに店員さんを引き留めた。


「先輩のバカっ! 勝手に頼んじゃダメ! すみません、今の取り消してうっすーい水ロックでお願いします! いや、むしろ、水でいいです! 酔いをさますくらいの冷たーいお冷や、お願いします!」

「んだよ~先輩に向かってバカとか言うなよ~。さきこ、かわいくねぇなぁ~」

「ぎゃっ」


ピンっとおでこを弾かれたと思えば、先輩はテーブルの上にこてんと寝てしまった。

先輩の突然の行動に、適度にアルコール濃度を薄めるためにノンアルコールを飲ませていたとは言え、急性アルコール中毒にでもなってしまったのかと、私は焦る。

ほら、言わんこっちゃない~!


「せ、先輩っ? 大丈夫ですかっ? 気をしっかり持って!」

「あー……、バカなら記憶なんてすぐに忘れられたらいいのに……」

「へっ?」

「でも何度しようとしたってできねぇし……記憶操作できる能力があればいいのに……」

「……」


呟くようにぼそぼそと妙なことを言い出した先輩に対して変な声を出してしまったけど、先輩の目線は私の方を向くことはなかった。

氷だけになったグラスをぼんやりと見つめながら片手でカラカラと動かし始めたところを見ると、体調が悪くなったわけではなさそうだ。

アルコール中毒ではなさそうで少しほっとしたけれど、先輩の様子がおかしいことには変わりない。

 
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