モノクロ
……そして、その1時間後。
私はたった今起こっている状況をうまく把握できないまま、ヨロヨロと歩いていた。
ずっしりとした重さが私の体にかかる。
ど、どうして、こんなことに……!
「先輩……っ、自分の力で歩いてくださいよぉ……! いや、っていうか、やっぱり今からでもタクシー拾って自分のおうちに帰りましょう! まだその辺にタクシーいます!」
「やだ。帰りたくない。さきこんち行くし」
「駄々こねないでください!」
私の肩に腕を乗せ、全体重を乗せているんじゃないかというくらい私に寄りかかってくるのは、先輩だ。
いつもは先輩に触れられればドキドキしてしまう心臓も、今は体力消耗の息切れと動悸でしかない。
タクシーを降りてからたったの10メートルしか移動していないのにこんなにヘロヘロになるなんて、日頃の運動不足を痛感する。
でも今はお酒も入ってるし、さすがに自分よりも大きい男の人を抱えて歩くのは無理!
「さきこが俺のことを捨てる……」
「人聞きの悪いことを言わないでください!」
「んーじゃあ、ここで寝る~」
「あっ、そこは近所の柴犬タローのお気に入りのマーキング場所だから寝ちゃダメです! 朝イチでお散歩するから、そんなところで寝てたら起きた時には大変なことになってますよ!」
「……」
私の焦った言葉に、先輩はむぅと口を尖らせて不服そうな表情を浮かべる。
いやいやいや! その顔はすごくかわいいですけど、その顔をしたいのは私の方ですから!