モノクロ
結局、その後も先輩は私の体にピッタリとくっついて自分からすすんで歩こうとしなかったので、半分引きずるようにして、どうにか私の部屋の前まで辿り着いた。
いい加減、体力の限界だ。疲れた。今すぐベッドの上に倒れこみたい。
かちゃりと玄関の鍵を開けると、先輩は私が開ける前にドアを開け放った。
「おじゃましまーす」
「あっ、先輩!?」
そうして一目散に部屋の中に入っていってしまった。
今までのノロノロな動きは何だったのかと言いたくなるほどの軽やかな足どりで。
私ははぁとため息をつきながら部屋の鍵を閉め、自分の靴と先輩が脱ぎ捨てていった靴を揃えて、部屋に上がった。
私のお城である部屋は8畳というこじんまりした空間だ。
広めのクローゼットがあるものの、本があちらこちらに溢れ返っている。
一応、いつ人が来てもいいように片付けてはいるけど、来たためしは正直言って、ない。
「先輩、ちゃんとひとりで歩けるじゃないですか~。……って、もう寝てるし!」
部屋に入った瞬間、私の目に入ったのは、部屋の壁際にあるベッドの上……ではなく、床の上にころんと転がっている塊。
それは、ベッドの上に乗せていたふかふかの毛布にくるまった状態の先輩だ。
余程眠かったのかもしれないけど、毛布はかぶっちゃうという妙なところだけちゃっかりしているところが、先輩らしい。
仕方ないなとため息をつきながら、先輩のそばに無造作に置かれたビジネスバッグとスーツの上着をそっと手に取る。
ビジネスバッグは壁際に置き、スーツは皺にならないように壁にかけてあったハンガーにかけた。
次は先輩だ。
半ば無理矢理、部屋に上がりこまれてしまったとは言え、さすがにこのまま床に寝せておくわけにはいかない。
私はしょっちゅうマンガを読みながら床で寝ちゃってたりするから慣れてるけど、先輩はそうじゃないだろう。
私は新しいベッドシーツを引っ張りだし、ガバッと剥いで着け替える。
枕代わりに、くるくると丸めたタオルをぽんと置いた。
よし、これで少しはマシになったはず。