モノクロ
「俺もついにチェリーなくしたのか……」
「はい!? 何を……っ」
先輩がチェリーのはず……って、そういう問題じゃない!
「何って、さきこ知らねぇの? チェリーっていうのは、どう」
「わーっ! 説明しなくて大丈夫ですっ! 知ってます!」
「そう?」
「はい。って、そんな話はしなくていいんです! とにかく! 私は何もしてませんから! 信じてください!」
「えー、でもなぁ、こう……」
「ぎゃーっ、言わなくていいですっ! た、確かに、先輩の寝方はかわいいなって思いましたけど! 毛布にくるんってくるまってる姿がネコちゃんみたいで! それだけですから!」
「俺の寝方を見たってことは、やっぱりさきこ……」
「違いますってば~! 遠くから眺めてただけですってばぁぁ!」
拳を握って上下にブンブンと振り必死に否定していると、先輩が手の甲を口元に当ててくすくすと笑い始めた。
「くくくっ」
「!?」
「……っていう冗談はそろそろ置いといて」
「はいっ!? また冗談ですか!? もう、酷い!」
「冗談が過ぎます!」と先輩のことを睨むと、先輩はほんの一瞬前までの可笑しそうな表情を穏やかなものに変えて、くすくす笑いながら「ごめんごめん」と私の頭をぽんぽんと撫でてきた。
すごく悔しいけど、その笑顔に胸がきゅんとなってしまう。
「ありがとな、さきこ」
「え?」
「昨日のことあんまり覚えてないんだけどさ、こんな俺に付き合ってくれて。無理に起こさないでくれたんだよな? さきこのおかげで、ゆっくり寝れたよ。ありがとな」
「い、いえ、私は何も……っ」
「さきこがいてくれて、ほんと良かった」
「……!」
先輩の言葉と笑顔が嬉しくて、涙が出そうになった。
私でも少しは先輩の役に立てたのかもしれないって思えたんだ。
……私、先輩のそばにいてもいいのかな……?