モノクロ
「つーか、何でさきこだけ梢とほいほい会ってんだよっ? 何故、俺を呼ばない!」
「えっ、そ、それは……っ」
先輩のことを若菜さんに相談してたからです、なんて言えない!
「くっそー。今度佐山にさきこ抜きで梢に会わせろって頼もう」
「えっ、私も呼んでくださいよー! っていうか、先輩こそ私に内緒で梢ちゃんに会ったことは知ってるんですよ! いつの間にか“はーくん”なんて呼ばれちゃって! だから同罪です! 私も梢ちゃんと遊びたい!」
「さきこの方が罪は重い! 抜け駆けした罰だ!」
「えぇぇ~そんなぁ~」
梢ちゃんに会いたいのはもちろんだけど、先輩と梢ちゃんがじゃれあっている光景もすごく好きなのだ。
先輩が梢ちゃんに見せる笑顔はふにゃふにゃのものもパパっぽいものも、どれも最高に素敵だから。
しゅんとして目線を落としてしまうと、ぽんっと頭を軽く叩かれた。
はっと顔を上げると、呆れの少し混じった先輩の笑顔があった。
「冗談だよ、冗談!」
「へ……?」
「くくっ、まったく。んな顔すんなよー。よしよし」
ぽんぽんと先輩の手が私の頭を軽く撫でる。
「せ、先輩~」
「そのうち一緒に会いに行こーぜ。前会ったって言っても一瞬だったんだ。俺も梢とゆっくり遊びたいし、さきこも付き合えよ」
「は、はいっ! 喜んで!」
「くくっ。単純。ほんとかわいいな、さきこは」
「……」
わしわしと髪の毛を乱すように頭を荒く撫でられて、まるで自分が猫になったような感じがした。
先輩の笑顔を見ながら思う。
……先輩はもう大丈夫? 無理して笑ってない? 心からちゃんと笑えてる?
先輩の心を理解できる日は、きっと来ない。
でも、ほんの少しの時間だけでも、私と一緒に過ごしてくれる時間を楽しいものだって思ってくれたらいい。
おこがましいことはわかってるし本当は彼女である三神さんの役目かもしれないけど、それでも、先輩の報われない気持ちを私が少しでも軽くしてあげられたらいいのにって思う。
どうか、先輩が心から笑える日が来ますように。