モノクロ
蜜柑
***
私はどたばたと階段を駆け上がり、廊下を走っていた。
エレベーターなんて、待ってられないっ!
息が切れ切れの状態でオフィスにようやく辿り着き、扉を開け放つ。
「佐山さん!」
「佐々木さん、戻ってきたか」
私を出迎えてくれたのは、オフィスの真ん中にあるテーブルの周りに集まっている佐山さん始めオフィスのみんなだ。
私は上がりきった息をぜーはーと整えながら、必死に言葉を紡ぐ。
「さ、サンプル品が、届いたって、聞いて……っ」
「あぁ」
「!」
私の言葉に頷いてくれた佐山さんの笑顔に、ごくりと唾を飲む。
サンプル品の作成を業者に依頼してから早数週間。
次の企画の仕事にも慣れて充実した毎日を過ごしていた。
そんな中、資料室からオフィスに戻る途中で、逆にオフィスから資料室へ行く同僚が「サンプルが届いたから早く戻って」という言葉をかけてきたのだ。
エレベーターを待っている余裕もないほど落ち着かなくて、階段を必死に登りオフィスに戻ってきたのだった。
やっと落ち着いてきた息をふぅとつき、みんなの集まるテーブルにゆっくりと近付いていくと、そのテーブルの上にちょうど腕におさまるくらいのダンボール箱が見えた。
その周りには納品書のような紙が置いてあるだけ。
察するにサンプル品はきっと、ダンボール箱の中だ。
そう理解した私は、テーブルの2メートルほど手前で動きを止めてしまった。
そんな私に気付いた大嶋さんが「もっと前においでよ」と手招きしてくれ、ぎこちなく近付く。