モノクロ
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今行っている企画に関する業者とのやり取りのメール作成の作業を行っていた時、オフィスの入り口から佐山さんが私の名前を呼んだ。
「佐々木さん、今出てこれる?」
「あっ、はい! 大丈夫です!」
オフィスの外に消えていってしまう佐山さんを追うように、私もオフィスを出た。
オフィスを出ると佐山さんが待ってくれていて、エレベーターの方へ歩き出す。
「どこに行くんですか?」
「いいからいいから。ついてきたらいいことあるから」
「?」
いつもよりテンションが上がっている様子の佐山さんがエレベーターに乗り込み、首を傾げながら私も乗り込んだ。
佐山さんの手によって押されたのは商品管理部がある2階のボタン。
この時期に商品管理部に行くということは……。
佐山さんが向かっている先に何があるのかを想像して、私の期待が高まっていく。
「……佐山さん、もしかして」
私がその予想を口にしようとした時、エレベーターの速度が落ち、4階で止まり扉が開いた。
「あれ、佐山。と、さきこ?」
「紀村。お疲れ」
「お疲れさまです!」
「おー、お疲れ」
乗り込んで来たのは紀村先輩だった。
その手はポチっと1階のボタンを押す。
ブックカバーのサンプル品が出来上がってきた後、営業のブックカバー担当の人のところに訪れるために何度か営業部のオフィスに来たんだけど、先輩は出張だったり外回りだったりで会うタイミングがなくて。
佐山さんにそのことを伝えると、つい最近発売された商品の担当で忙しくしているらしいと教えてもらい、先輩に会いに行くのはやめていたんだ。
日程伺い書の件でも先輩には助けてもらったしブックカバーがもうすぐできることを伝えたくてウズウズするけれど、きっと今も聞いている暇はないだろうと私はぐっと我慢する。でも。
「紀村。今時間あるか?」
「ん? あぁ。少しなら」
「じゃあ、お前も来い」
「は?」
佐山さんの言葉に先輩が聞き返した瞬間、エレベーターは2階に到着し、扉が開いた。
すたすたと歩いていく佐山さんに続いて私と先輩もエレベーターから降りる。
「さきこ、何かあんの?」
「私もはっきりとは聞いてないんですけど……」
「は? 何それ」
「でも、たぶん……出来たのかもしれません」
予想を口にした時、佐山さんがうちの会社の商品が格納されている部屋の扉を開いた。