モノクロ
*Colors03*
緑
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休日を利用して専門書を取り扱っている本屋に来ていた智子(ともこ)は必死に背伸びをして、手を上に伸ばしていた。
周りを見ても店員さんはおらず、踏み台も見当たらない。
やっぱり自分で取るしかないと、5分近く、智子はその本と格闘を続けていた。
もう無理だ、と体の力を抜いてしまった時、横に影が現れた。
『!』
『これ? どうぞ』
いとも簡単に智子が望んでいた本がその人物の手に収まり、智子の前にすっと差し出される。
目の前に差し出された本を智子は受け取りながら、目の前の相手にお礼を言う。
『あ、すみません! ありがとうござ、むぐっ』
『しーっ。静かにしなきゃ、周りに迷惑掛けちゃうよ?』
『!』
その場に響き渡りそうになった智子の声をシャットアウトしたのは、端整な顔に綺麗な笑みを浮かべた長身の男。
切れ長の目と薄めの唇がとても色っぽく、でも人懐っこい笑みで、智子は呆然と見とれてしまっていた。
……いや、見とれてしまった理由はそれだけではない。
智子の目に映るのは……会社の上司だったから。
『何か見たことある子がいるなーと思ったら、河崎(かわさき)さんだったんだね』
『!!』
『あれ? 何でそんな顔すんの』
『~~っ』
会社での課長はいつも無愛想で不機嫌で、笑顔なんて全く見せない。
でも今目に映る課長はにこやかで口調も人懐っこいもので……。
あまりの衝撃に後ろにひっくり返りそうになった時、課長は智子の口から手を離し、智子の腕をガシッと掴んできた。
体を引き寄せられたかと思えば、目の前に課長のドアップすぎる顔があった。
『!?』
長くて骨張った課長の指が智子が抱き締めていた本をトントンと指す。
『これのお礼、もらってもいいよな?』
『へ? っ!?』
やわらかい唇が突然近付いてきて智子の唇をちゅっと吸い、離れていく。
呆然とその状況を見ていると、課長のにっこりとした笑みがはっきりと目に映った。
『じゃあ、俺の恋人になるってことで決まりな?』
『……はいっ!?』
突然の決定事項に智子が再び後ろにひっくり返りそうになったのは、言うまでもない。
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