モノクロ
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意外と近くに、まるで少女マンガのような恋愛をしている人物がいた。
「……はぁ、夏乃ってば、どんな恋愛してるの。イケメンで頭良くてちょっと強引で? 恋人ごっこの末、付き合うようになった? まるでマンガみたい!」
「そうかなぁ? 振り回されっぱなしで嫌になっちゃうよ!」
「でも楽しそうだね? 彼のこと、大好きなんだね」
「ま、まぁ。えへへ」
私は久しぶりに実家に戻ってきていた。
妹の夏乃が笑顔で出迎えてくれて、夏乃は私に会えなかった期間を埋めるように、お姉ちゃんっ子を存分に発揮。
しかも彼氏くんからのデートの誘いを断ってまで、私にぴったりと張りついている次第だ。
ちょっと彼氏くんに悪いことしたなと思ってしまう。
会わない間に夏乃はまたさらにかわいくなっていて、贔屓目がなくてもそれは明らかだった。
少し前に夏乃に彼氏ができたことは聞いていたんだけど、その内容は聞いていなくて。
聞いてみるとひとつのお話ができてしまいそうな恋愛を、夏乃はしているようだった。
夏乃の部屋のベッドの上にふたりで座り込んで、おしゃべりを続ける。
「で、大学受験も頑張ろうって奮起してるわけなんだ? 彼氏くんと同じ大学に行くために」
「べ、別に陸(りく)と同じ大学に行きたいからって頑張ってるわけじゃないもん! 行きたい学部があるの!」
「はいはい。応援してるから頑張りなさい」
「もー、お姉ちゃんの意地悪~」
頬をピンクに染めてぷりぷりと怒る夏乃がまたかわいくて、私はくすくすと笑いながら、ぽんぽんと夏乃の頭を撫でた。
「お姉ちゃんは? 好きな人とはどうなったの?」
「進展なし! すでにフラれちゃってるし彼女もいるし、今のままが心地いいからこのままで終わっちゃうと思う」
「えぇー! その人、見る目なぁい! こんなに素敵なお姉ちゃんなのに!」
「ありがとう、夏乃」
お姉ちゃんっ子の夏乃は、私の気持ちを持ち上げるのも得意だ。
そして、かわいい妹にめろめろなのは私も同じ。
“陸くん”とやらに渡すのはちょっぴり惜しい。
……先輩のことは夏乃に言った通りで、きっとこのまま進展することなんてないと思う。
先輩と三神さんは順調そうで、二人で歩いているところを見たことが何度もあるから。
それは会社の中であったり、偶然、街中であったり。
二人を纏う空気は恋人同士そのもので、うまくいっているんだなと感じた。
先輩はきっと報われない恋を乗り越えようと前に進んでいるんだって思う。