モノクロ
うーん。栞のことは考えなきゃいけないかもなぁ……。
あ、栞のオプションをつけてみるとか……取り外し可能にするとか?
こう、ストラップみたいにブックカバーの背の一番上につけれるようにして……うん、いいかもしれない!
布の強度の問題もありそうだし、もう少し練ってみてから佐山さんにも相談してみよう。
お客さまの意見からアイディアが生まれることもあるんだなぁと思った時、背後から声が聞こえてきた。
「お疲れー」
「先輩っ! お疲れさまです!」
挨拶の声に振り向くと紀村先輩が資料を手に持って立っていて、私は笑顔を向けて挨拶をする。
先輩も笑顔を見せてくれて、その一番上に乗っていた一枚を私に差し出してきた。
「さきこ、これ。いつものやつな」
「わぁ! ありがとうございます~! そろそろかなって楽しみにしてたんです!」
「存分に役立てろよ。で、佐山はこれ。このシステム手帳なんだけどさ」
先輩と佐山さんが真剣な表情で話し始めたのを横目に、私は先輩から渡された資料に目を通す。
そこに書かれているのはブックカバーを置いてもらっているお店からの状況や意見などだ。
客層などが書かれていることもあり、毎回見るのが楽しみで仕方がない。
先輩はブックカバーが発売されてから月に1回程度、こうやって資料を持ってきてくれる。
他の商品に関してもやっていることで特別なことではないとは言え、先輩が取りまとめてくれていることが嬉しくて仕方なかった。
意見をパソコンに打ち込み、さっきの栞の件も含めて何だかんだと考えていると、佐山さんとの話が終わったらしい先輩の明るい声が聞こえてきた。
「さっ、今週の仕事も終わりだな!」
「切り替え早いな。もしかして、明日のことで頭いっぱいか?」
「あったりまえだろー!? 明日を楽しみにいつも以上に気合い入れて仕事してきたんだし! なっ、さきこ!」
「はいっ! 私、先輩には負けませんからね!」
「はっ、いい度胸してんな~!」
「おい、お前ら、人の娘を勝手に取り合うなよ。梢は俺のだ」
「佐山さん、権力は認めませんよ! ねっ、先輩!」
「そうだな。たとえ父親だろうが、梢の意見を尊重する!」
私と先輩の主張に佐山さんは呆れたようにはぁとため息をつく。
明日は佐山家に先輩と私とで訪問する予定になっていて。
佐山さんのおうちに遊びに行くのは初めてで、決まった時からずっと楽しみにしていたんだ。
梢ちゃんに会えるのも、先輩のめろめろな笑顔を見れるのも。
毎日を頑張ってきたご褒美だと思う。
仕事はやりがいがあるし楽しいことも多くなっているけど、やっぱりうまくいかなくて辛いこともあるから。
そしてご褒美はこうやって先輩とほんの少しだけど仕事を一緒にできることも。