モノクロ
「もう、先輩ってば! そんなに落ち込まないでくださいよー!」
「さきこに俺の気持ちがわかってたまるか。俺の梢が他の男のものになるなんて……っ」
「かわいい恋を応援してあげるのが大人ってものでしょ? 梢ちゃんも嬉しそうに話してくれてたし、いいことじゃないですか~。私、かわいいお話が聞けてほくほくですよ?」
「うるさいっ」
佐山家ではあの後、梢ちゃんがいる手前、とりあえず取り繕っていた男性陣だったけど、梢ちゃんとバイバイしてからの先輩は完全に拗ねてしまっていた。
もしかしたら佐山さんも梢ちゃんに隠れて若菜さんにやんやと問い詰めている頃かもしれない。
「いいなぁ。かわいい恋! この前実家に帰った時も、妹の恋バナを聞いてきゅんきゅんしたばっかりなんですよね~」
「ふーん。かわいい恋ねぇ」
「もう。そんな興味ないみたいな顔しないでください。っていうか、梢ちゃんの意思を尊重するって言ってたの、先輩ですよ? だからあたたかく見守りましょうよ、ねっ?」
何とか機嫌を直してもらおうと私は先輩の二の腕をぽんぽんと軽く叩き、笑顔を向ける。
先輩に向かって恋愛の話を持ちかけるなんて自分の首を絞めることになるとはわかっているけれど、先輩が笑顔になってくれるならもう何でも構わない。
でも私の想いは伝わってくれないようで、先輩から降ってくる表情はやっぱり拗ねたもの。
口を尖らせたまま先輩が口を開く。
「……わかった。とりあえず、今日のところは梢のことは大目に見てやる。その分、さきこがなぐさめろよ」
「へっ?」
突然真剣な表情に変貌し、私の手首を掴んだ先輩に、私の心臓がどきっと大きく音をたてる。
「今日は他に用事はないんだよな? 俺に付き合え」
「え、先輩?」
「ほら、行くぞ」
「!」
先輩はそう言い、私の手首を掴んだまま歩き出す。
「どこに行くんですか?」と先輩に訊ねても、先輩は口を開くことはなく、ただ私の手を引いて歩くだけ。
その手は私の手をすっぽりと包み込んでしまうほど大きくてすごくあたたかくて。
先輩は私がはぐれないように手を引いてくれているだけなのだとわかっていても、私の鼓動のドキドキは速まるばかりだった。