モノクロ
その後、私と先輩はコーヒーショップでコーヒーを飲みながら1時間程おしゃべりをして、たくさんのお店やデパートが並ぶ通りを他愛のない話をしながら歩いていた。
佐山さんの家を出た頃にはまだ高い位置にあった太陽も、気付けば低い位置で暖色を帯びた色に変わっている。
今日は先輩のいろんな表情も見れたしすごく楽しかったなぁとしみじみと感じていた時だった。
「隼人?」
「ん? あれ、圭斗じゃんか! こんなところで会うとか珍しいな!」
「そうだな」
横から飛んできた男の人の呼び掛けに先輩が足を止めて振り向き、笑顔を向ける。
私も少し遅れて足を止めた。
先輩に声を掛けてきたその人は、先輩みたいに明るいタイプというより、佐山さんと同じタイプの落ち着いた男の人だという印象を受けた。
先輩のお友達なのかな?
……っていうか、“圭斗”って名前、どこかで聞いたことがあるような……。
どこで聞いたんだっけ?と記憶を辿っていると、先輩が男の人に問い掛ける。
「あいつも一緒にいんの?」
「あぁ、うん。幸太(こうた)がぐずったから、今授乳室行ってる」
「ふーん」
「あっ、圭くんいたいた! おっぱいあげたら泣きやんだよ! やっぱりお腹空いてたみたい!」
デパートの出口から赤ちゃんを抱いた女の人が男の人に向かって笑顔で歩み寄ってきた。
そしてその表情はすぐに驚いたものに変わり、先輩のことを指差す。
「って、あれ!? 何でいるの?」
「偶然な。つーかお前なぁ、街のど真ん中でおっぱいとか言うなよ」
「別にいーでしょ? ねぇ、幸ちゃん~」
女の人はやわらかい母親の笑みを浮かべて赤ちゃんのほっぺをつんつんとしながら、赤ちゃんの体をあやすようにゆらゆらと揺らす。
「まったく」と呆れたように溢した先輩は、手を上下に動かしている赤ちゃんに手を伸ばし、人差し指をちょいちょいと動かしてその小さな手に握らせた。