モノクロ
「……ふふふっ」
「は? 何だよ急に笑って」
「ううん! 楽しそうだなって思って! ねっ、圭くん」
「……うん。あ、友美、幸太寝てる」
「あれっ? 幸ちゃん、おねむしちゃった?」
「疲れたのかもしれないな。友美、そろそろ帰ろうか」
「うん。じゃあ、お兄ちゃん、またね」
「はいはい。気をつけて帰れよ。あと、母さんと圭斗のおふくろさんが幸太幸太言ってうるさいから、たまには幸太連れて帰ってきてやって」
「うん。わかった。圭くん、今度行こうね」
「あぁ」
「お兄ちゃんも彼女さんと幸せにね!」
「……はいはい。言われなくても。じゃあな」
ふっと零れた先輩の笑顔がやさしくて。
その表情だけで、私は全てを悟った気がした。
去っていく友美さんと圭斗さんの後ろ姿をぼんやりと見つめる。
……先輩がずっと想っている、忘れられないくらい好きな人って……。
気付いてしまった真実にぞくっと全身が粟立った瞬間、先輩の視線が妹さんの後ろ姿から私に移った。
「さきこ、俺らも行くか」
「っ!」
「は? さきこ、何て顔してんだよ」
「あっ、いや、あの……っ」
「?」
「お、お腹空いたなって、思って」
「ぶはっ! 腹へって泣きそう顔してんの? さっきコーヒーショップでケーキ食ってたじゃん! さすがさきこだな!」
先輩はくすくすといつものように明るい笑顔を見せてくれたけど、その心の中には今どんな感情が渦巻いているんだろうと想像すると、胸がぎゅうっと締め付けられる感じがした。
やだ……先輩の気持ちを考えると苦しくて辛くて、泣きそう。
どんな想いで先輩は笑ってるの……っ。
私は今あった出来事から話をそらすことしかできなくて、心の中はぐちゃぐちゃで、どう考えても不自然な笑顔しか浮かべることができていなかったと思う。
先輩が抱えている想いに私が気付いてしまったことを、先輩に気付かれないように振る舞うことができていたのか、私にはわからなかった。
でも、この時の私には、無理矢理にでも笑顔でいるという方法しかなかったんだ。